ベイズ理論に基づくマリガン基準の問題
2011年4月24日 コラム コメント (5)目次:http://himajin.diarynote.jp/201103131200449531/
コラム:http://himajin.diarynote.jp/?theme_id=12
3回の日記に分けて、
・ベイズ理論(確率論)
・ギャンブラーの罠(心理学)
・コンコルドの誤り(経済学)
をテーマに対コンボなどへのマリガン基準からプレイング全般に関するいろいろを解説します。
【ベイズ理論】
Q:レガシーの対戦。あなたはDragon Stompy、対戦相手はCanadian Thresholdを使っており、g1を落としてg2の開始時です。先攻のあなたは1回マリガンを宣言し、後攻の相手のkp宣言を聞いた上で6枚の手札をkpしました。この時1ターン目に《血染めの月/Blood Moon》キャストが可能なものであるとして、それが4積みの《Force of Will》で消されてしまうと絶望的な手札だとします。初手ぶっぱするかどうかを決めるには相手の手札の情報がほしいところです。では、対戦相手の手札にWillがある確率は何%でしょう? ただし簡単のためWillがあるときはいつも他に餌の青いカードもあるものとします。
確率論を知っている人なら即答で
(1-combination(56,7)/combination(60,7))×100=40[%]
と答えるかもしれませんが、それは誤りです。何故なら40%という数字は7枚引いた初手にWillがある確率であって、7枚引いた初手がkpされている条件下でWillがある確率ではないのです。つまり、ただ7枚引かれたという情報だけでなく、相手がそれをkpできる内容であるという情報も得ているわけなのです。では40%以上であることは間違いないですが、実際は40%よりどの程度高くなるのでしょう? それを考えるためにはベイズ理論やフェルミ推定の考え方を用いると非常に便利です。ベイズ理論は経済学の論文「Doomsday Argument」(人類の歴史があとどのくらい続くか)で、フェルミ推定は天文学の「ドレイクの方程式」(地球外生命体と交信できる確率)で使われたことで有名で、いずれも理系の人が不確定量を計算するときによく使う非常に便利で基本的な概念です。
ベイズ理論とはどのようなものかというと、AとBという関連した事象が起こりうるとして「Aが起きたという条件の下でBも起きている確率」は単に「Bの起こる確率」とは異なり、その値は「AもBも両方起きる確率」÷「Aが起きる確率」となり「Bの起こる確率」という変数が入らない式になります。重要なのはAとBの因果関係の形に関係なく、時に因果律に逆らった方向で情報が得られるという点です。例えば「Bが起きたらそれを原因としてAが起きることが多く、その確率もわかっている」という状況を考えましょう。そういう時に、逆にAが起きたという情報があればBも起きている確率の情報まで得られるという直感的でないことがおきるということです。具体的にはAが「昼食に牛乳が出る」という事象、Bが「昼食にパンが出る」という事象だとしてそれらは相関のある事象とします。Aの確率が80%、Bの確率は50%、Bが確定していればAの条件付き確率を100%、つまりパンが出る日はいつも牛乳も出るとしましょう。そうなると、「昼食に牛乳が出る(A)ことが確定しているときにパンも出る(B)」確率はどうなるでしょう? 普通に考えてしまうと、パンが出れば牛乳が出ることは分かっても逆に牛乳が出ているからと言ってパンが出るとは限らないわけで、その確率についても何ら情報がないように見えます。しかし、AかつBとなる確率はBの確率と等しく50%なので、ベイズ理論に基づくと「昼食に牛乳が出ることが確定している状況でパンも出る確率」は50/80×100=63[%]となり、これは単に「パンが出る」確率50%と異なってしまいます。これは簡単な状況なので当たり前に感じてしまう人も多いかもしれませんが、もっと複雑な状況だとうっかり忘れてしまうことも多いので非常に大切な考え方です。
フェルミ推定はどのようなものかというと、直接には決定が難しくまるで取っ掛かりのない未知数を求める際に、未知数の計算に関わる「全ての変数を列挙」し、適切な近似を加えつつ最終的に未知数を「具体的に計算可能な式で記述」するというものです。これにより計算の手掛かりのなかった未知数を計算可能量とみなすことができます。先ほど例に挙げたドレイクの方程式についてですが、あなたがもし「地球外知的生命体に人類が会える確率を可能な限り厳密なパーセンテージで示して欲しい」と聞かれた場合、どのように計算しますか? とてもじゃないですが取っ掛かりがなさすぎて計算できないでしょうね。それを計算可能な値にしてしまうのがフェルミ推定です。
まず相手が初手をkpしている場合にWillがある条件付き確率Pは、Willがない条件下で相手が手札をkpする確率をQとおくと
P=(40/(40+60Q))×100=100/(1+1.5Q)[%]
となります。ここで40や60という係数は上で計算した「7枚引いた初手にWillがある確率」とその余事象の確率です。つまり、Willがない条件下で相手が手札をkpする確率Qを計算できれば求めたかった確率Pが求まるわけで、例えばQ=0%(Willがなければ確実にマリガンしてくる場合)はP=100%なのでマリガンしなかったという事実だけで相手の手札にWillがあることが確定し、もしQ=100%(Willがなかろうとマリガンは絶対しない場合)となると相手がマリガンしなかったという情報がなんらエントロピーを与えないのでそのままP=40%になりますね。ではどのようにQを計算すればいいでしょう?
基本前提として、4枚積みのカードが手札に来る確率は、初めの計算と同様にcombinationを無理やり求めれば
初手:40%、1マリ後:35%、2マリ後:30%
となり、つまり例えば初手の手札でWillがないとき、続く1マリでWillが得られる確率は35%、2マリ以内にWillが得られる確率は(0.35+0.65×0.30)×100=54.5[%]となります。これを用いてもうちょっと詳細な計算をしてみましょう。まずは未知数を記号でおいて、後でいろんな値を代入してみます。状況はまたDragon Stompy vs Canadian Thresholdでも何でもいいですが、1ターン目からぶっぱできるコンボとWillの4枚入っている十分青いデッキだとします。青いデッキに着目して、そのデッキがWillなしの初手で勝てる確率をp、Willありの初手で勝てる確率をq、マリガンをするたびに勝てる確率が減る割合を等比近似しrとおきます。7枚の初手でWillがない場合そのままの手札で勝てる確率はqなのに対し、1~2回マリガンをする場合の勝率はどうなるでしょう? 1回マリガンしてWillを引いて勝てる確率は0.35rp、1回マリガンしてWillを引かなかったけどそのまま勝てる確率は0.65rqなので、1回のマリガンで勝てる確率は
0.35rp+0.65rq
です。さらに、1回のマリガンではWillが引けなかったとします。この条件下ではそのままの手札で勝てる確率はrqなのに対し、2回目のマリガンでようやくWillを引いて勝てる確率は0.30(r^2)p、2回のマリガンではWillを引かずにそれでも勝てる確率は0.70(r^2)qとなるので、これらを合計すると、この条件下で2回目のマリガンをする場合の勝率は
0.30(r^2)p+0.70(r^2)q
となります。
以上をまとめると、もしrq≧0.30(r^2)p+0.70(r^2)qの場合はもしWillがなくてもマリガンは1回で止めたほうがよく、逆にrq<0.30(r^2)p+0.70(r^2)qの場合は1回目のマリガンでWillがなかったならマリガンをしたほうがよく、1~2回のマリガンで勝てる確率は
0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)
となります。なので、もしq≧0.35rp+0.65rqかつq≧0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)の場合は初手にWillがなくてもマリガンをしないほうがよく、逆にq<0.35rp+0.65rqまたはp<0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)の場合は初手にWillがないならマリガンをすべきとなります。というわけで、rとpとqに適当な値を代入してみましょう。rは経験則として0.8、pとqはp>qかつ0.50>qの範囲で適当に動かしてみます。初手にWillがない場合の最善の戦略での勝率をRとし、
rq=0.80q、0.30(r^2)p+0.70(r^2)q=0.19p+0.45q
rq-(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)=-0.19p+0.35q
0.35rp+0.65rq=0.28p+0.52q、0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)=0.40p+0.45q
q-(0.35rp+0.65rq)=-0.28p+0.48q、q-(0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q))=-0.40p+0.55q
0.35/0.19=1.8、0.48/0.28=1.7、0.55/0.40=1.4
(p,q)=(0.90,0.20)のときp/q=4.5で、
Willを引かなければ2回までマリガンをするのが最善
R=(0.40p+0.45q)×100=45%
(p,q)=(0.80,0.30)のときp/q=2.6で、
Willを引かなければ2回までマリガンをするのが最善
R=(0.40p+0.45q)×100=46%
(p,q)=(0.70,0.40)のときp/q=1.75で、
Willを引かなければ1回までマリガンをするのが最善
R=(0.28p+0.52q)×100=40%
(p,q)=(0.65,0.45)のときp/q=1.44で、
Willを引かなくてもマリガンをしないのが最善
R=(0.40p+0.45q)×100=46%
(p,q)=(0.60,0.50)のときp/q=1.2で、
Willを引かなくてもマリガンをしないのが最善
R=(0.40p+0.45q)×100=47%
まとめると、Willがある場合とない場合の勝率比がおよそ2倍以上ある場合は初手にWillがないならば積極的にマリガンすべきで、勝率比がおよそ1.5倍以下しかない場合はWillを引かなくてもマリガンをしないほうがいいということです。その間の勝率比については1.7~1.8の値で1回マリガンをすべきかどうかが切り替わるのでやや判断の難しいところですね。
さて、本題に戻りまして、一番初めの問いに答えるためにQを計算しないといけませんね。Qを計算するには、pとqの比が1.7以上あるかないかを考えればいいわけです。p/q≧1.7のときマリガンを1回以上するべきで、p/q<1.7のときマリガンをしないほうがいいわけです。つまり求めたかった「Willがない条件下で相手が手札をkpする確率」Qは「相手がp/q≧1.7と判断する確率」に一致するわけです。さらに簡単のためDragon StompyとCanadian Thresholdの相性差についてあなたと相手は議論したことがあり、q=0.3程度という認識を共有していると仮定します。(この仮定は少しいびつにみえるでしょうが、Dragon Stompy側からCanadian Thresholdに効くカードが多い関係でDragon Stompyが先手の場合の勝率を考える場合、恐らく多くのプレイヤーがWillさえこなければDragon Stompy有利すなわちq<0.50と設定する可能性が高く、このような状況で他に情報がなければ0.00と0.50の中間値0.25を四捨五入して3割という数字を心理的に出しやすいと思うので、この仮定自体はある程度の精度があるものと思われます)となるとp/q≧1.7の必要十分条件はp>0.5となり、Qは「相手がp>0.5と判断する確率」となります。では相手がpを判断するにはどういう思考をたどるでしょう? p>q=0.3は前提として、世の中に100%はないのでp<0.9と仮定する人が多いでしょう。すると0.3<p<0.9の範囲でpの判断値の分布を考えればよく、大体心理的に境界点での分布は薄く中心点が濃くなりやすいです。仮に均等な分布の場合はp>0.5となる確率は(0.2/0.6)×100=33[%]、正規分布や二項分布のような分布の場合は例えば量子化単位を0.1で計算すると((1+6)/2^6)×100=11[%]となり、おおよそ0.1<Q<0.3程度を目安に計算すればいいことがわかりますね。
以上より、求めたかった「相手が初手をkpしている場合にWillがある条件付き確率」P=100/(1+1.5Q)[%]は70~90%になるわけです。
(´▽`)。oO(という夢だったのさ)
そんなわけないでしょうね!
正確に言えば、「相手がベイズ理論とフェルミ推定で物事を計算するタイプでかつ心理的特徴が統計的に正規分布や二項分布を用いて予測できるならば、相手が初手をkpしている場合にWillがある条件付き確率は70~90%」であり、「相手がカジュアルだったりプレイングに確率論を意識しないタイプでかつ心理的特徴も予測不可能な場合、相手の行動は相手の手札を予測するための情報としての寄与があまりに薄弱なため、相手が初手をkpしている場合にWillがある条件付き確率は40%のまま」であるというだけのことです。それにまじめにQを計算したいのなら心理学的な側面から攻めるのではなくそこも素直に確率論として「Willがないハンドがkpできる内容である確率」を計算すべきですよね。
今回のハイライトは途中ででてきた、4枚積みのカードが手札に来る確率
初手:40%、1マリ後:35%、2マリ後:30%
(マリガンなしなら40%、1回までしていいなら合計61%、2回までしていいなら合計72%)
とWillがあるときとないときの勝率比p/qとマリガン基準の関係
p/q≧1.8なら
Willを引かなければ2回までマリガンをするのが最善
1.7≦p/q<1.8なら
Willを引かなければ1回までマリガンをするのが最善
p/q<1.7なら
Willを引かなくてもマリガンをしないのが最善
というところですね。これらの数値はかなり重要なので覚えておいて損はないです。
ちなみにWillに限らず何らかの対策カードなどをサイドから6枠や8枠とっている場合にそれらが初手に来る確率もついでに書いておくとこんな感じです。
6枠の場合
初手:54%、1マリ後:48%、2マリ後:42%
(マリガンなしなら54%、1回までしていいなら合計76%、2回までしていいなら合計86%)
8枠
初手:65%、1マリ後:59%、2マリ後:52%
(マリガンなしなら65%、1回までしていいなら合計86%、2回までしていいなら合計93%)
ご覧のように、対策カードを2枠増やせば2マリしても同じくらい引けるということですね!
というわけで、青対策いっぱい入れましょう!ヾ(>ω<)ノシ
次回(http://himajin.diarynote.jp/201104302333514699/)はギャンブラーの罠についてです。
コラム:http://himajin.diarynote.jp/?theme_id=12
3回の日記に分けて、
・ベイズ理論(確率論)
・ギャンブラーの罠(心理学)
・コンコルドの誤り(経済学)
をテーマに対コンボなどへのマリガン基準からプレイング全般に関するいろいろを解説します。
【ベイズ理論】
Q:レガシーの対戦。あなたはDragon Stompy、対戦相手はCanadian Thresholdを使っており、g1を落としてg2の開始時です。先攻のあなたは1回マリガンを宣言し、後攻の相手のkp宣言を聞いた上で6枚の手札をkpしました。この時1ターン目に《血染めの月/Blood Moon》キャストが可能なものであるとして、それが4積みの《Force of Will》で消されてしまうと絶望的な手札だとします。初手ぶっぱするかどうかを決めるには相手の手札の情報がほしいところです。では、対戦相手の手札にWillがある確率は何%でしょう? ただし簡単のためWillがあるときはいつも他に餌の青いカードもあるものとします。
確率論を知っている人なら即答で
(1-combination(56,7)/combination(60,7))×100=40[%]
と答えるかもしれませんが、それは誤りです。何故なら40%という数字は7枚引いた初手にWillがある確率であって、7枚引いた初手がkpされている条件下でWillがある確率ではないのです。つまり、ただ7枚引かれたという情報だけでなく、相手がそれをkpできる内容であるという情報も得ているわけなのです。では40%以上であることは間違いないですが、実際は40%よりどの程度高くなるのでしょう? それを考えるためにはベイズ理論やフェルミ推定の考え方を用いると非常に便利です。ベイズ理論は経済学の論文「Doomsday Argument」(人類の歴史があとどのくらい続くか)で、フェルミ推定は天文学の「ドレイクの方程式」(地球外生命体と交信できる確率)で使われたことで有名で、いずれも理系の人が不確定量を計算するときによく使う非常に便利で基本的な概念です。
ベイズ理論とはどのようなものかというと、AとBという関連した事象が起こりうるとして「Aが起きたという条件の下でBも起きている確率」は単に「Bの起こる確率」とは異なり、その値は「AもBも両方起きる確率」÷「Aが起きる確率」となり「Bの起こる確率」という変数が入らない式になります。重要なのはAとBの因果関係の形に関係なく、時に因果律に逆らった方向で情報が得られるという点です。例えば「Bが起きたらそれを原因としてAが起きることが多く、その確率もわかっている」という状況を考えましょう。そういう時に、逆にAが起きたという情報があればBも起きている確率の情報まで得られるという直感的でないことがおきるということです。具体的にはAが「昼食に牛乳が出る」という事象、Bが「昼食にパンが出る」という事象だとしてそれらは相関のある事象とします。Aの確率が80%、Bの確率は50%、Bが確定していればAの条件付き確率を100%、つまりパンが出る日はいつも牛乳も出るとしましょう。そうなると、「昼食に牛乳が出る(A)ことが確定しているときにパンも出る(B)」確率はどうなるでしょう? 普通に考えてしまうと、パンが出れば牛乳が出ることは分かっても逆に牛乳が出ているからと言ってパンが出るとは限らないわけで、その確率についても何ら情報がないように見えます。しかし、AかつBとなる確率はBの確率と等しく50%なので、ベイズ理論に基づくと「昼食に牛乳が出ることが確定している状況でパンも出る確率」は50/80×100=63[%]となり、これは単に「パンが出る」確率50%と異なってしまいます。これは簡単な状況なので当たり前に感じてしまう人も多いかもしれませんが、もっと複雑な状況だとうっかり忘れてしまうことも多いので非常に大切な考え方です。
フェルミ推定はどのようなものかというと、直接には決定が難しくまるで取っ掛かりのない未知数を求める際に、未知数の計算に関わる「全ての変数を列挙」し、適切な近似を加えつつ最終的に未知数を「具体的に計算可能な式で記述」するというものです。これにより計算の手掛かりのなかった未知数を計算可能量とみなすことができます。先ほど例に挙げたドレイクの方程式についてですが、あなたがもし「地球外知的生命体に人類が会える確率を可能な限り厳密なパーセンテージで示して欲しい」と聞かれた場合、どのように計算しますか? とてもじゃないですが取っ掛かりがなさすぎて計算できないでしょうね。それを計算可能な値にしてしまうのがフェルミ推定です。
まず相手が初手をkpしている場合にWillがある条件付き確率Pは、Willがない条件下で相手が手札をkpする確率をQとおくと
P=(40/(40+60Q))×100=100/(1+1.5Q)[%]
となります。ここで40や60という係数は上で計算した「7枚引いた初手にWillがある確率」とその余事象の確率です。つまり、Willがない条件下で相手が手札をkpする確率Qを計算できれば求めたかった確率Pが求まるわけで、例えばQ=0%(Willがなければ確実にマリガンしてくる場合)はP=100%なのでマリガンしなかったという事実だけで相手の手札にWillがあることが確定し、もしQ=100%(Willがなかろうとマリガンは絶対しない場合)となると相手がマリガンしなかったという情報がなんらエントロピーを与えないのでそのままP=40%になりますね。ではどのようにQを計算すればいいでしょう?
基本前提として、4枚積みのカードが手札に来る確率は、初めの計算と同様にcombinationを無理やり求めれば
初手:40%、1マリ後:35%、2マリ後:30%
となり、つまり例えば初手の手札でWillがないとき、続く1マリでWillが得られる確率は35%、2マリ以内にWillが得られる確率は(0.35+0.65×0.30)×100=54.5[%]となります。これを用いてもうちょっと詳細な計算をしてみましょう。まずは未知数を記号でおいて、後でいろんな値を代入してみます。状況はまたDragon Stompy vs Canadian Thresholdでも何でもいいですが、1ターン目からぶっぱできるコンボとWillの4枚入っている十分青いデッキだとします。青いデッキに着目して、そのデッキがWillなしの初手で勝てる確率をp、Willありの初手で勝てる確率をq、マリガンをするたびに勝てる確率が減る割合を等比近似しrとおきます。7枚の初手でWillがない場合そのままの手札で勝てる確率はqなのに対し、1~2回マリガンをする場合の勝率はどうなるでしょう? 1回マリガンしてWillを引いて勝てる確率は0.35rp、1回マリガンしてWillを引かなかったけどそのまま勝てる確率は0.65rqなので、1回のマリガンで勝てる確率は
0.35rp+0.65rq
です。さらに、1回のマリガンではWillが引けなかったとします。この条件下ではそのままの手札で勝てる確率はrqなのに対し、2回目のマリガンでようやくWillを引いて勝てる確率は0.30(r^2)p、2回のマリガンではWillを引かずにそれでも勝てる確率は0.70(r^2)qとなるので、これらを合計すると、この条件下で2回目のマリガンをする場合の勝率は
0.30(r^2)p+0.70(r^2)q
となります。
以上をまとめると、もしrq≧0.30(r^2)p+0.70(r^2)qの場合はもしWillがなくてもマリガンは1回で止めたほうがよく、逆にrq<0.30(r^2)p+0.70(r^2)qの場合は1回目のマリガンでWillがなかったならマリガンをしたほうがよく、1~2回のマリガンで勝てる確率は
0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)
となります。なので、もしq≧0.35rp+0.65rqかつq≧0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)の場合は初手にWillがなくてもマリガンをしないほうがよく、逆にq<0.35rp+0.65rqまたはp<0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)の場合は初手にWillがないならマリガンをすべきとなります。というわけで、rとpとqに適当な値を代入してみましょう。rは経験則として0.8、pとqはp>qかつ0.50>qの範囲で適当に動かしてみます。初手にWillがない場合の最善の戦略での勝率をRとし、
rq=0.80q、0.30(r^2)p+0.70(r^2)q=0.19p+0.45q
rq-(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)=-0.19p+0.35q
0.35rp+0.65rq=0.28p+0.52q、0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q)=0.40p+0.45q
q-(0.35rp+0.65rq)=-0.28p+0.48q、q-(0.35rp+0.65(0.30(r^2)p+0.70(r^2)q))=-0.40p+0.55q
0.35/0.19=1.8、0.48/0.28=1.7、0.55/0.40=1.4
(p,q)=(0.90,0.20)のときp/q=4.5で、
Willを引かなければ2回までマリガンをするのが最善
R=(0.40p+0.45q)×100=45%
(p,q)=(0.80,0.30)のときp/q=2.6で、
Willを引かなければ2回までマリガンをするのが最善
R=(0.40p+0.45q)×100=46%
(p,q)=(0.70,0.40)のときp/q=1.75で、
Willを引かなければ1回までマリガンをするのが最善
R=(0.28p+0.52q)×100=40%
(p,q)=(0.65,0.45)のときp/q=1.44で、
Willを引かなくてもマリガンをしないのが最善
R=(0.40p+0.45q)×100=46%
(p,q)=(0.60,0.50)のときp/q=1.2で、
Willを引かなくてもマリガンをしないのが最善
R=(0.40p+0.45q)×100=47%
まとめると、Willがある場合とない場合の勝率比がおよそ2倍以上ある場合は初手にWillがないならば積極的にマリガンすべきで、勝率比がおよそ1.5倍以下しかない場合はWillを引かなくてもマリガンをしないほうがいいということです。その間の勝率比については1.7~1.8の値で1回マリガンをすべきかどうかが切り替わるのでやや判断の難しいところですね。
さて、本題に戻りまして、一番初めの問いに答えるためにQを計算しないといけませんね。Qを計算するには、pとqの比が1.7以上あるかないかを考えればいいわけです。p/q≧1.7のときマリガンを1回以上するべきで、p/q<1.7のときマリガンをしないほうがいいわけです。つまり求めたかった「Willがない条件下で相手が手札をkpする確率」Qは「相手がp/q≧1.7と判断する確率」に一致するわけです。さらに簡単のためDragon StompyとCanadian Thresholdの相性差についてあなたと相手は議論したことがあり、q=0.3程度という認識を共有していると仮定します。(この仮定は少しいびつにみえるでしょうが、Dragon Stompy側からCanadian Thresholdに効くカードが多い関係でDragon Stompyが先手の場合の勝率を考える場合、恐らく多くのプレイヤーがWillさえこなければDragon Stompy有利すなわちq<0.50と設定する可能性が高く、このような状況で他に情報がなければ0.00と0.50の中間値0.25を四捨五入して3割という数字を心理的に出しやすいと思うので、この仮定自体はある程度の精度があるものと思われます)となるとp/q≧1.7の必要十分条件はp>0.5となり、Qは「相手がp>0.5と判断する確率」となります。では相手がpを判断するにはどういう思考をたどるでしょう? p>q=0.3は前提として、世の中に100%はないのでp<0.9と仮定する人が多いでしょう。すると0.3<p<0.9の範囲でpの判断値の分布を考えればよく、大体心理的に境界点での分布は薄く中心点が濃くなりやすいです。仮に均等な分布の場合はp>0.5となる確率は(0.2/0.6)×100=33[%]、正規分布や二項分布のような分布の場合は例えば量子化単位を0.1で計算すると((1+6)/2^6)×100=11[%]となり、おおよそ0.1<Q<0.3程度を目安に計算すればいいことがわかりますね。
以上より、求めたかった「相手が初手をkpしている場合にWillがある条件付き確率」P=100/(1+1.5Q)[%]は70~90%になるわけです。
(´▽`)。oO(という夢だったのさ)
そんなわけないでしょうね!
正確に言えば、「相手がベイズ理論とフェルミ推定で物事を計算するタイプでかつ心理的特徴が統計的に正規分布や二項分布を用いて予測できるならば、相手が初手をkpしている場合にWillがある条件付き確率は70~90%」であり、「相手がカジュアルだったりプレイングに確率論を意識しないタイプでかつ心理的特徴も予測不可能な場合、相手の行動は相手の手札を予測するための情報としての寄与があまりに薄弱なため、相手が初手をkpしている場合にWillがある条件付き確率は40%のまま」であるというだけのことです。それにまじめにQを計算したいのなら心理学的な側面から攻めるのではなくそこも素直に確率論として「Willがないハンドがkpできる内容である確率」を計算すべきですよね。
今回のハイライトは途中ででてきた、4枚積みのカードが手札に来る確率
初手:40%、1マリ後:35%、2マリ後:30%
(マリガンなしなら40%、1回までしていいなら合計61%、2回までしていいなら合計72%)
とWillがあるときとないときの勝率比p/qとマリガン基準の関係
p/q≧1.8なら
Willを引かなければ2回までマリガンをするのが最善
1.7≦p/q<1.8なら
Willを引かなければ1回までマリガンをするのが最善
p/q<1.7なら
Willを引かなくてもマリガンをしないのが最善
というところですね。これらの数値はかなり重要なので覚えておいて損はないです。
ちなみにWillに限らず何らかの対策カードなどをサイドから6枠や8枠とっている場合にそれらが初手に来る確率もついでに書いておくとこんな感じです。
6枠の場合
初手:54%、1マリ後:48%、2マリ後:42%
(マリガンなしなら54%、1回までしていいなら合計76%、2回までしていいなら合計86%)
8枠
初手:65%、1マリ後:59%、2マリ後:52%
(マリガンなしなら65%、1回までしていいなら合計86%、2回までしていいなら合計93%)
ご覧のように、対策カードを2枠増やせば2マリしても同じくらい引けるということですね!
というわけで、青対策いっぱい入れましょう!ヾ(>ω<)ノシ
次回(http://himajin.diarynote.jp/201104302333514699/)はギャンブラーの罠についてです。
コメント
ドラストの場合は嵌めを先延ばししてもドロー操作が無い分引くカードにそれ程期待できないのに対してカナスレ側は土地を置ければ《目くらまし/Daze》やドロー操作でカウンターできる可能性が更に増えるだろうし
そしてたいていのコンボデッキならぶっぱもしたほうがいいのですが、今回あえてDragon StompyとCanadian Thresholdのマッチを選んだのは戦略的にぶっぱしないこともぎりぎり最善になりうると思ったからです。
コンボが1ターン目のぶっぱをしないほうが最善の戦略になる場合というのは、初手にWillがない確率40%に比べて初手にぶっぱせずにターンを重ねて行って勝てる確率が大きくなる場合のみですが、その確率というのは通常ドローソースと妨害手段の多いCanadian Thresholdの場合後者が低くなることが多いと考えられます。しかしDragon Stompyのマッチの場合、対Canadian Thresholdで有効なマストカウンターが多く、しかも2マナランドや《金属モックス/Chrome Mox》や《猿人の指導霊/Simian Spirit Guide》のおかげで《目くらまし/Daze》や《呪文貫き/Spell Pierce》も効きにくい(というか後攻のCanadian Thresholdは私の知る限りDragon Stompyに対して《目くらまし/Daze》を数枚サイドアウトします)のでもしかしたらぶっぱしないほうが勝てる確率が高いのでは、と思ったのです。
例としては、Dragon Stompy側の手札(1マリという仮定なので6枚でしかも月が打ち消されたら絶望的ということで他に嵌めカードはない)が
《山/Mountain》《古えの墳墓/Ancient Tomb》《金属モックス/Chrome Mox》《金属モックス/Chrome Mox》《猿人の指導霊/Simian Spirit Guide 》《血染めの月/Blood Moon》
だとします。もし初手月を出すなら古の墳墓と金属モックスに指導霊刻印でしょうが、月が打ち消されたとき残りの手札は山と金属モックスという投了ものの手札ですね。しかし仮に初手山をおいてターンを返したとしましょう。次に月より弱い餌のマストカウンターである《虚空の杯/Chalice of the Void》か《三なる宝球/Trinisphere 》を引く確率は8/54×100=15[%](サイド後なのでそれぞれ4積みになっているとします)、追加の月を引く確率は3/54×100=5[%]、嵌めに関係ない強いカード(タイプによっていろいろですが《弧炎撒き/Arc-Slogger》《槌のコス/Koth of the Hammer》《憤怒の天使アクローマ/Akroma, Angel of Fury》《髑髏砕き峡の王/Lord of Shatterskull Pass》など合計平均4枚?)を引く確率は4/54×100=7[%]で合計28%です。その他相手が赤マナや火力のない状況で《月の大魔術師/Magus of the Moon》を引く確率などいろいろありますが、合計しても60%には程遠いですねw この場合はぶっぱが確実に正解です。というかぶっぱせざるをえないの手札をkpしたわけですね。
しかしもう少し手札がよければ(さすがに1マリで月以外すべてマナソースはきついです)次のターンに待つ行為で月を通せる確率が60%を超える選択肢があるケースもあるかもしれません。60%というのはそういう微妙な確率だと思ってますので、意識したほうがいいと思ってます。
結論:私はDragon Stompy使わない!マリガン基準難しすぎる!
そういうプレッシャーを与えたところで相手が2枚以上嵌めカードを引いていたりしてきたらまず確実にぶっぱしてくるので、そういうケースを考えるとWillはなるべくほしいところですね。今回Dragon Stompyが1ターン目ぶっぱを踏みとどまる可能性がある状況として設定したのは(1マリの前提で)1枚しか嵌めカードを引けず、かつそれ以外に有効牌を持っていないという状況ですし。
あと確率関係ないですが、Dragon Stompyをはじめとする初手ぶっぱデッキを使う人は性格的にこっちの手札の枚数関係なく豪快にぶっぱしてきそうですねw spれがしたいからそういうデッキ使ってるわけですし。