コンコルドの誤りとジェイスのmode選択
2011年5月14日 コラム目次:http://himajin.diarynote.jp/201103131200449531/
コラム:http://himajin.diarynote.jp/?theme_id=12
前回(http://himajin.diarynote.jp/201104302333514699/)の続きです。
3回の日記に分けて、
・ベイズ理論(確率論)
・ギャンブラーの罠(心理学)
・コンコルドの誤り(経済学)
をテーマに対コンボなどへのマリガン基準からプレイング全般に関するいろいろを解説します。
今回でこのシリーズは最後です。
【コンコルドの誤り】
さて、今回は各フォーマットで人気を集めてる《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》のmode選択に関する問題です。
Q:以下の各シチュエーションにおいて(*)印以降のプレイングは論理的に整合性があるでしょうか?((*)以前のプレイングがあっているかどうかは関係ありません) ただしジェイスの使い方が正しいかどうかを考える問題ではなく、あくまでそのプレイングを選択する過程の思考に論理的整合性があるかどうかだけ判断してください。
※あらかじめ念入りに注意をしておきますが、問題を考えた私自身は使ってるデッキ(http://himajin.diarynote.jp/201102172159081800/)の偏りからジェイスをあまり使ったことがありません。たぶん数回ほど出して使ったことがあるのと《占有/Take Possession》でジェイスを1回奪ったことがある程度なのでジェイスのプレイングに関しては初心者です。
(1) Mono Blue BtB対The Rockの状況です。あなたは忠誠度5の《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》をコントロールしており戦場には他に互いに土地が十分にあるだけで、こちらの手札には《Force of Will》や《ヴィダルケンの枷/Vedalken Shackles》などがあります。あなたがフルタップでターンを渡したのに相手は何もアクションせずにターンを返しました。これを受けあなたは相手の手札が弱いと考え、しかもこちらは手札にWillと枷があり万全なのでジェイスのmode 1で優勢を固定しようとしたら、相手のトップは《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek》でした。あなたはこれを弱いと判断しトップに残してターンを渡したところ、相手は再び何もせずターンを返しました。(*)続くあなたのターンです。さっきは気付きませんでしたがよく見たら相手のコジレックで落とせるカードは枷だけだったので、ジェイスのmode 2で枷を逃がせばさらに安全になると考え、さっきコジレックをボトムに置かなかったにもかかわらず今度はmode 2で枷をトップから2番目に戻しました。
(2) Mono Blue BtB対The Rockの状況です。あなたは忠誠度7の《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》をコントロールしており戦場には他に互いに土地が十分にあるだけで、お互いに手札はありません。あなたはジェイスのmode 1で勝負を決めにいこうとしたら、相手のトップは《森/Forest》でした。あなたはこれを弱いと判断してトップに残しターンを渡したところ、相手は当然森をセットしただけでターンを返しました。(*)続くあなたのターンです。あなたはこの時点でまだカウンターもクリーチャー対策も引いていないことに気付き、相手に有効牌を引かれたらまずいかもしれないと思いましたが、ここでmode 2を使うなら前のターンからそもそもmode 2を使うべきだったと考え、あなたは初志貫徹の意図で今回もmode 1をしました。
(3) Mono Blue BtB対The Rockの状況です。あなたのライフは4で、あなたは忠誠度13の《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》をコントロールしており戦場には他に互いに土地が十分にあるだけで、こちらの手札は《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》だけですが相手は手札が7枚あります。あなたは青マナで調査を唱え相手の手札を確認した上でジェイスのmode 4を決めたので、相手の山札があと7枚でその内訳は基本土地6枚と《復讐蔦/Vengevine》だけだと分かっています。あなたがそのままターンを渡したところ、相手は何もせずターンを返しました。あなたはカウンターもクリーチャー対策もなくもし蔦を引かれたら速攻で殴られて負けてしまうので、この後3ターンあなたはジェイスのmode 2で解答などを探しにいき、それ以外はお互いその間何もしませんでした。ちなみにライブラリーシャッフル手段はありませんでした。(*)続くあなたのターンです。この時点でまだカウンターもクリーチャー対策も引いていないあなたは引き続きmode 2を選んだ方が、既に連続でmode 2でライブラリーを掘って非解答カードを引いているためライブラリー内に占める解答の枚数比率が3ターン前より若干上がっているので、解答にアクセスできる確率が高くなっていると考えmode 2を選びました。
では順に正誤を見ていきましょう。
(1)の考え方はあっています。たとえ前のターンにmode 1を選んでいたからと言って、それが次のmode 2を選択することへの抑止になることはありません。コンコルドの誤りとは投資に関する理論で、「断続的な投資を継続する際に、次の投資に関するリスクとリターン以外の要素として過去にどのようなパターンの投資をしたかを考慮することはまったく重要でなく、それはあくまで心情的な要素でしかない」ということです。今回のケースでも、過去にmode 1を選んだこととは関係なくその時考えうる最善の選択をすべきということです。
(2)の考え方は誤っています。初志貫徹という考え方こそそれ単体では無意味で、前回と同じ試行をすることに意味があるかどうかをその都度別個に考えるべきです。それに「次にmode 2を使うならば元々mode 2を使っておくべきだった」という考え方も、過去を悔やむのは勝手ですがそれはまた別の話です。
(3)の考え方は半分あっていて半分間違っています。まずあっている部分についてですが、今回の場合は同じ初志貫徹でも(2)のように無意味なものではなく、それまでの試行が次の試行へどう影響しているか考えた上での反復なので、コンコルドの誤りとは別で整合性が取れた考え方です。コンコルドの誤りとはあくまで「断続的な投資を継続するに際しに過去の選択を次の投資のリスクやリターンとは関係なく大きな要素として考慮すること」でして、過去の選択を次の投資のリターンの計算に用いる分には何ら問題がありません。むしろ積極的に過去の選択は計算のための情報に入れるべきですね。(2)ではそういうのとは別に、ただ単に初志貫徹という意図だけで次の投資への影響を考慮しなかったことが問題なのです。そして今度は間違っている部分についてですが、相手の残り山札の枚数は3枚なのでトップに蔦がある確率は33%です。トップに蔦がある場合にmode 1を選択すれば蔦が3枚の山札のボトムに行くので2ターンの猶予ができます。従って蔦を引かれるまでにあなたは通常のドローとジェイスのmode 2で合計4枚のカードを引けます(シャッフル手段のない状況で既に3ターン連続でmode 2を使っているので、mode 2を使っても引ける3枚のうちアクセスできる新しいカードは1枚だけであることに気を付けてください)。もしmode 2を選択していたならば1枚のカードにアクセスできるだけとなりますので、結局mode1を選択しておいた方が蔦を引かれるまでに3枚分多くのカードにアクセスできたことになります。逆にトップに蔦がなかった場合はmode 1は何もせず、mode 2だと1枚分多くカードにアクセスできます。この場合は次のターンにmode 1を選ぶこともmode 2を選ぶこともできますが、いずれの場合にしても次のターン以降にアクセスできる枚数はこのターンにmode 1とmode 2のどちらを選んだかとは独立になるので、結局このターンから数えて蔦を引かれるまでにこちらがアクセスできる枚数はこのターンにmode 1を選んでおいた方が1枚多いということは変わりません。以上をまとめると、このターンにmode 2を選んだ場合に蔦を引かれるまでにアクセスできる枚数とmode 1を選んだ場合の枚数の差の期待値は
-3×(1/3)+1×(2/3)=-1/3[枚]
となり、実はmode 1を選んでおいた方が解答を引きやすかったわけですね。
さて、あなたは何も考えずに
「さっきのターンにmode 1でフィニッシュに入るって決めたんだからこのターンも初志貫徹でmode 1にしよう」
とか
「よく考えたらさっきのターンからmode 1に入ればよかったのにmode 2でアドを取りに行ってしまったのでどうせならこのままもうちょっとmode 2でアドを固めてからmode 1に移ろう」
とか
「相手がさっきmode 1してきたのに今度はmode 2をしてきた、これはプレイングが一貫していないので理解できない」
といった思考はしていませんでしょうか。それこそコンコルドの誤りに基づいた誤謬なので、気を付けていきましょう。まあ確かに一貫した動きをするのは強そうに見えるかもしれないので、そういう見栄がブラフとして有意に働いてくれる可能性も否定できませんけどね!
というわけでこのシリーズはこれでおしまいです。ベイズ理論は直感に反しやすい理論なので盲点が多かったですね。ギャンブラーの罠やコンコルドの誤りは、私のあげた例ですと人によっては「そんなミスするわけないでしょー」と思うかもしれませんが、意識していないと対戦でも日常生活でも頻繁に起こる勘違いなので、ぜひ対戦中は一呼吸おいて自分のプレイングが勘違いでないかどうか確認してみるといいかもしれませんね。
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前回(http://himajin.diarynote.jp/201104302333514699/)の続きです。
3回の日記に分けて、
・ベイズ理論(確率論)
・ギャンブラーの罠(心理学)
・コンコルドの誤り(経済学)
をテーマに対コンボなどへのマリガン基準からプレイング全般に関するいろいろを解説します。
今回でこのシリーズは最後です。
【コンコルドの誤り】
さて、今回は各フォーマットで人気を集めてる《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》のmode選択に関する問題です。
Q:以下の各シチュエーションにおいて(*)印以降のプレイングは論理的に整合性があるでしょうか?((*)以前のプレイングがあっているかどうかは関係ありません) ただしジェイスの使い方が正しいかどうかを考える問題ではなく、あくまでそのプレイングを選択する過程の思考に論理的整合性があるかどうかだけ判断してください。
※あらかじめ念入りに注意をしておきますが、問題を考えた私自身は使ってるデッキ(http://himajin.diarynote.jp/201102172159081800/)の偏りからジェイスをあまり使ったことがありません。たぶん数回ほど出して使ったことがあるのと《占有/Take Possession》でジェイスを1回奪ったことがある程度なのでジェイスのプレイングに関しては初心者です。
(1) Mono Blue BtB対The Rockの状況です。あなたは忠誠度5の《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》をコントロールしており戦場には他に互いに土地が十分にあるだけで、こちらの手札には《Force of Will》や《ヴィダルケンの枷/Vedalken Shackles》などがあります。あなたがフルタップでターンを渡したのに相手は何もアクションせずにターンを返しました。これを受けあなたは相手の手札が弱いと考え、しかもこちらは手札にWillと枷があり万全なのでジェイスのmode 1で優勢を固定しようとしたら、相手のトップは《コジレックの審問/Inquisition of Kozilek》でした。あなたはこれを弱いと判断しトップに残してターンを渡したところ、相手は再び何もせずターンを返しました。(*)続くあなたのターンです。さっきは気付きませんでしたがよく見たら相手のコジレックで落とせるカードは枷だけだったので、ジェイスのmode 2で枷を逃がせばさらに安全になると考え、さっきコジレックをボトムに置かなかったにもかかわらず今度はmode 2で枷をトップから2番目に戻しました。
(2) Mono Blue BtB対The Rockの状況です。あなたは忠誠度7の《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》をコントロールしており戦場には他に互いに土地が十分にあるだけで、お互いに手札はありません。あなたはジェイスのmode 1で勝負を決めにいこうとしたら、相手のトップは《森/Forest》でした。あなたはこれを弱いと判断してトップに残しターンを渡したところ、相手は当然森をセットしただけでターンを返しました。(*)続くあなたのターンです。あなたはこの時点でまだカウンターもクリーチャー対策も引いていないことに気付き、相手に有効牌を引かれたらまずいかもしれないと思いましたが、ここでmode 2を使うなら前のターンからそもそもmode 2を使うべきだったと考え、あなたは初志貫徹の意図で今回もmode 1をしました。
(3) Mono Blue BtB対The Rockの状況です。あなたのライフは4で、あなたは忠誠度13の《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》をコントロールしており戦場には他に互いに土地が十分にあるだけで、こちらの手札は《ギタクシア派の調査/Gitaxian Probe》だけですが相手は手札が7枚あります。あなたは青マナで調査を唱え相手の手札を確認した上でジェイスのmode 4を決めたので、相手の山札があと7枚でその内訳は基本土地6枚と《復讐蔦/Vengevine》だけだと分かっています。あなたがそのままターンを渡したところ、相手は何もせずターンを返しました。あなたはカウンターもクリーチャー対策もなくもし蔦を引かれたら速攻で殴られて負けてしまうので、この後3ターンあなたはジェイスのmode 2で解答などを探しにいき、それ以外はお互いその間何もしませんでした。ちなみにライブラリーシャッフル手段はありませんでした。(*)続くあなたのターンです。この時点でまだカウンターもクリーチャー対策も引いていないあなたは引き続きmode 2を選んだ方が、既に連続でmode 2でライブラリーを掘って非解答カードを引いているためライブラリー内に占める解答の枚数比率が3ターン前より若干上がっているので、解答にアクセスできる確率が高くなっていると考えmode 2を選びました。
では順に正誤を見ていきましょう。
(1)の考え方はあっています。たとえ前のターンにmode 1を選んでいたからと言って、それが次のmode 2を選択することへの抑止になることはありません。コンコルドの誤りとは投資に関する理論で、「断続的な投資を継続する際に、次の投資に関するリスクとリターン以外の要素として過去にどのようなパターンの投資をしたかを考慮することはまったく重要でなく、それはあくまで心情的な要素でしかない」ということです。今回のケースでも、過去にmode 1を選んだこととは関係なくその時考えうる最善の選択をすべきということです。
(2)の考え方は誤っています。初志貫徹という考え方こそそれ単体では無意味で、前回と同じ試行をすることに意味があるかどうかをその都度別個に考えるべきです。それに「次にmode 2を使うならば元々mode 2を使っておくべきだった」という考え方も、過去を悔やむのは勝手ですがそれはまた別の話です。
(3)の考え方は半分あっていて半分間違っています。まずあっている部分についてですが、今回の場合は同じ初志貫徹でも(2)のように無意味なものではなく、それまでの試行が次の試行へどう影響しているか考えた上での反復なので、コンコルドの誤りとは別で整合性が取れた考え方です。コンコルドの誤りとはあくまで「断続的な投資を継続するに際しに過去の選択を次の投資のリスクやリターンとは関係なく大きな要素として考慮すること」でして、過去の選択を次の投資のリターンの計算に用いる分には何ら問題がありません。むしろ積極的に過去の選択は計算のための情報に入れるべきですね。(2)ではそういうのとは別に、ただ単に初志貫徹という意図だけで次の投資への影響を考慮しなかったことが問題なのです。そして今度は間違っている部分についてですが、相手の残り山札の枚数は3枚なのでトップに蔦がある確率は33%です。トップに蔦がある場合にmode 1を選択すれば蔦が3枚の山札のボトムに行くので2ターンの猶予ができます。従って蔦を引かれるまでにあなたは通常のドローとジェイスのmode 2で合計4枚のカードを引けます(シャッフル手段のない状況で既に3ターン連続でmode 2を使っているので、mode 2を使っても引ける3枚のうちアクセスできる新しいカードは1枚だけであることに気を付けてください)。もしmode 2を選択していたならば1枚のカードにアクセスできるだけとなりますので、結局mode1を選択しておいた方が蔦を引かれるまでに3枚分多くのカードにアクセスできたことになります。逆にトップに蔦がなかった場合はmode 1は何もせず、mode 2だと1枚分多くカードにアクセスできます。この場合は次のターンにmode 1を選ぶこともmode 2を選ぶこともできますが、いずれの場合にしても次のターン以降にアクセスできる枚数はこのターンにmode 1とmode 2のどちらを選んだかとは独立になるので、結局このターンから数えて蔦を引かれるまでにこちらがアクセスできる枚数はこのターンにmode 1を選んでおいた方が1枚多いということは変わりません。以上をまとめると、このターンにmode 2を選んだ場合に蔦を引かれるまでにアクセスできる枚数とmode 1を選んだ場合の枚数の差の期待値は
-3×(1/3)+1×(2/3)=-1/3[枚]
となり、実はmode 1を選んでおいた方が解答を引きやすかったわけですね。
さて、あなたは何も考えずに
「さっきのターンにmode 1でフィニッシュに入るって決めたんだからこのターンも初志貫徹でmode 1にしよう」
とか
「よく考えたらさっきのターンからmode 1に入ればよかったのにmode 2でアドを取りに行ってしまったのでどうせならこのままもうちょっとmode 2でアドを固めてからmode 1に移ろう」
とか
「相手がさっきmode 1してきたのに今度はmode 2をしてきた、これはプレイングが一貫していないので理解できない」
といった思考はしていませんでしょうか。それこそコンコルドの誤りに基づいた誤謬なので、気を付けていきましょう。まあ確かに一貫した動きをするのは強そうに見えるかもしれないので、そういう見栄がブラフとして有意に働いてくれる可能性も否定できませんけどね!
というわけでこのシリーズはこれでおしまいです。ベイズ理論は直感に反しやすい理論なので盲点が多かったですね。ギャンブラーの罠やコンコルドの誤りは、私のあげた例ですと人によっては「そんなミスするわけないでしょー」と思うかもしれませんが、意識していないと対戦でも日常生活でも頻繁に起こる勘違いなので、ぜひ対戦中は一呼吸おいて自分のプレイングが勘違いでないかどうか確認してみるといいかもしれませんね。
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