目次 http://himajin.diarynote.jp/201103131200449531/

Higgsうんぬんがメディアを騒がせていますね。しがない科学ファンとしてはこれを機に同類が増えてくれるとまた話が弾んで楽しくなりそうです。Higgsとは何なのかについては多くの報道で取り上げられていると思いますが、そもそもそれが何故重要な概念なのかについてはあまり詳しく述べられていない気がしますね。相変わらず流行りに乗ることが好きな日記ですので、今回はその辺が微妙に分かった気になれるかもしれない記事を書いてみましょう_(:∧」∠)_

言うまでもないと思いますがただでさえ素人なのに日記になるべくすっきりまとめるために厳密な解説は避けて記述しています。ですから過度な信用はしないで下さい。


【場の物理学】
高校までの物理を覚えている人なら、物理といえば粒子の運動や粒子に働く力の釣り合いを頑張って計算する学問という印象があるかもしれません。もちろん高校物理でも電場や磁場が扱われていたと思いますが、試験に出るのはそれらが粒子の運動に与える影響を調べるというもの。場そのものを扱うことは稀だったと思います。

大学レベルの物理になると、今度は粒子に変わってという概念が非常に重要なものとして習うと思います。場とは何かといいますと、考えている空間の各場所pで何らかの値f(p)を持つ関数fのことだと思いましょう。値というのは数だったりベクトルだったり様々です。各場所pというものは座標を用いて数値化できます。ニュートン力学でよく使う3次元空間ならばデカルト座標(x,y,z)や極座標(r,θ,φ)の2通りの表示の仕方があり、表示の仕方を決めてしまえば場fは(x,y,z)の関数f_{xyz}と見たり(r,θ,φ)の関数f_{rθφ}と見たりできます。3次元空間以外にも色々な空間が物理では登場します。位置と速度を両方記述する際に使われる位相空間は6次元デカルト座標(x,y,z,u,v,w)が使われます。特殊相対性理論でよく使われるミンコフスキー空間は4次元デカルト座標(t,x,y,z)で表しますが、一般のモデルにおいてこのような座標という概念を大域的に記述することができませんし、超弦理論にいたっては11次元となりやはり大域座標を持ちません。物理の苦手な人はこの大域的な座標がないということを、空間が1枚の平らな地図に書けないくらいぐにゃぐにゃしている的な意味だと思って下さい。例えば地球儀を地図にする時メルカトル図法なら北極点と南極点を書けませんし、正距方位図法なら対蹠点が書けませんね。だから2次元の平らな地図1枚で地球儀を完全に表すことはできないのですが、代わりに3次元の平らな地図に埋め込んでしまうことは簡単です。しかし高い次元の空間はより大きな次元の平らな空間にも埋め込んでみることができなかったり不思議なことが起きます。

場の基本的な例は電場と磁場と重力場でしょう。これらは説明しなくても何となくの意味は覚えていると思います。これらは全部ベクトルに値を持つ場になりますね。これ以外にはポテンシャル場があります。これはその場所の高さ的なものを表す場なので、数に値を持つ場です。場を座標についての関数だと思った時に、座標を同じ種類のものに取り替えると場の関数としての表示は変わります。例えば直線の上の場fを座標xを用いてf_{x}(x)=xと表せるとき、ガリレイ変換x’=x+1によりx座標をx’座標に取り替えてみるとfの表示はf_{x’}(x’)=x’+1となります。このように座標を取り替えると場の表示が変わったりします。


【場と粒子の相互作用】
場は粒子の運動に影響を与えます。例えば重力場があれば質量のある粒子は重力を受けつつ運動をし、電場があれば電荷のある粒子はクーロン力を受けつつ運動をします。また粒子が運動した結果、その粒子の運動自体が場に影響を与え、近接した未来の場を変えたりもします。例えば電荷のある粒子が運動すると新たな磁場が生じ、磁場の変化が電場を生み、電場の変化が更に磁場を生み、これを無限に繰り返すことで電場と磁場の値が交互にふらふらと振動します。この場の振動のことを電磁波と呼びます。電磁波こそが光の正体でして、それ自身はエネルギーを持ちますが質量も電荷も持たず、ましてや電気タイプで麻痺する技ではありません。このように、場と粒子は互いに影響を与え合うもので、またそれらの相互干渉の結果としてエネルギーを放出したりして空間の状態が変わります。そう考えると粒子自体も場の1つの正体として見えてきて、場も粒子も似通ったものなのかもしれない気がしてきますね。


【運動規則の対称性】
古典的なニュートン力学では、とりあえず粒子の運動が場に与える影響を無視しましょう。ニュートン力学の基本原理の1つはニュートンの運動方程式F=maです。Fは粒子に働く力、mは粒子の質量、aは粒子の加速度ですね。場があれば粒子に力を働かせますし、粒子同士が衝突しても粒子間に力が働きます。それらの合計がFですね。さて、加速度aというものは粒子のデカルト座標xを時間tで2階微分したものでした。つまりaのxによる表示はa_{x}=d^2x/dt^2です。ここでxを再びガリレイ変換x’=x+1により新しい座標x’に取り替えると、aのx’による表示はa_{x’}=d^2(x’-1)/dt^2=d^2x’/dt^2となります。定数ずらしても微分で消えちゃうんですね。つまりaの表示は座標をガリレイ変換しても変わらないというわけです。粒子に働く力Fも時間だけに依存した量ですし、粒子の質量はニュートン力学だと不変です。以上をまとめると、ニュートンの運動方程式F=maの表示は座標をガリレイ変換しても変わらないことが分かりました。こういうことを、「ニュートンの運動方程式のデカルト座標表示はガリレイ変換について対称である」と表現します。このような対称性はいつでも成立するわけではなく、例えばニュートンの運動方程式を極座標で記述した場合、極座標の自然な変換である座標の回転については対称性を持ちません。以上のように運動を記述する規則(ニュートンの運動方程式)・座標の取り方(デカルト座標)・同じ種類の座標の取り替え方(ガリレイ変換)の3つを揃えて初めて綺麗な物理学が記述されるので、それらは切っても切れない関係にあります。

ニュートン力学より高エネルギーの世界を記述する場合、まずは特殊相対性理論が用いられます。特殊相対性理論の世界では粒子の位置を記述する上で立体的位置(x,y,z)だけではなく時間的位置tも必要になり、この4つを合わせて時空間と言います。時空間の最も簡単なモデルがミンコフスキー空間で、そこでは4次元デカルト座標(t,x,y,z)が用いられます。ミンコフスキー空間のこの座標をミンコフスキー計量と呼びましょう。計量というのは距離の概念のことなので本来は違う意味ですが細かいことは忘れましょう。特殊相対性理論の運動方程式や電磁気方程式はこのミンコフスキー計量を用いて簡単に記述され、ローレンツ変換と呼ばれる4次元的な回転による座標の取り替えについて対称になります。逆に特殊相対性理論を綺麗に記述する座標と対称性を与える座標変換はミンコフスキー計量とローレンツ変換の類に限られてしまうため、相対論においてはこれまでのような3次元空間ではなく4次元空間が最低限必要であることが分かります。

運動の規則の対称性を見ることで自然な座標と座標変換が得られ、また運動の規則がどのような対称性を持つか自体が非常に重要な概念であることが伺えましたね。ここで座標変換は座標の表示を変えるものですが、それはガリレイ変換なら原点を平行移動すること、ローレンツ変換ならば視線方向を回転させることに対応し、いずれも空間の見方を変えることになります。これは空間を観測する人が視点や視線を移動させたり距離感を変えたりしただけなのですが、相対的には観測者が止まったまま空間の物理状態が変わったという捉え方ができます。つまりこの解釈に従うと座標変換というのは空間の状態を同じ種類の別の状態に取り替えることであるとみなせます。ものすごい飛躍がありますがこの辺を細かくしていくと非常に長くなるので割愛。


【自発的対称性の破れ】
いよいよHiggs場のお話です。上に挙げた特殊相対性理論までは高校3年生~大学生1年生レベルの簡単な内容なのでざっと読んで理解してもらえるぎりぎりの範疇かもしれませんが、Higgs場のお話をするには大学生3~4年生で学ぶようなgauge理論を説明しなければ細かい部分はよく分からないでしょう。そんなことを日記で解説する技能は私にはありません。専門的なところを抜きにしておおまかな説明で流すことにしましょう。

まず対称性の破れとは何かを例を交えて説明しましょう。色々な例がありますがとりあえず金属の磁性変化が分かりやすいと思います。ある金属分子は低温状態で磁石のような性質を持つとして、これが高温になると金属分子の熱運動が盛んになり磁石の性質を失うとしましょう。高温状態でこの金属分子が敷き詰められている空間を考えると、各々の分子は好き勝手な方向へ振動しており、全体的に見ると等しくランダムな状況になっています。この状態を回転させてもやはり見た目は等しくランダムな振動をしており、この空間は回転に関して対称性を持ちます。しかしこの空間の熱が失われていくと、ある温度から急に金属分子が磁石の性質を持ち、その瞬間すべての分子がN極とS極を揃え、特定の1方向を見るようになります。そうなってしまったらもう回転するとその磁界方向が動いてしまうので、この状態は回転対称性を持ちません。これが温度変化に伴う対称性の破れです。このように、最初は空間に存在していた何らかの変換に対する対称性が物理状態の変化を経て消滅してしまうこと、それが対称性の破れです。

さてgauge理論においてもやはり運動規則と場が存在し、それに適合する座標と座標変換が考察されます。ここで、最も基本的な物理状態は何でしょうか?それは最もポテンシャルの低い状態、つまり真空状態です。一見すると何も存在しないように見える真空は座標変換に対して対称な物理状態。しかし先程の磁性変化の例と同様に、実は真空は非対称な物理状態へと自然に変化してしまいます。これが大雑把な意味での自発的対称性の破れです。この自発的対称性の破れの根源にはgauge理論における場の性質があります。この場を統制する式にこそHiggs場の項が登場し、そしてそれに起因して対称性が破れて真空が真空じゃなくなることで質量が生じるのです。質量とは空間に充満したHiggs場から受ける摩擦のようなもので、宇宙誕生時の真空では摩擦的なものは存在しなかったのに自発的対称性の破れから物理状態が変わるとともに急に摩擦が現れたのです。従来の理論では真空は何も存在しない状態として解釈されていたわけですが、実はHiggs場のような目に見えない何かが真空の空間を占めていてその影響で唐突に質量が生じた、という実に不思議な話ですねえ。ちなみにこの真空への新しい解釈を与えたのは日本人だったりするのです。


以上、ちょっと分かった気になるかもしれない物理の雑学でした(¦3_ )=

コメント

しもべの一人、H
2013年10月9日21:54

なるほど、ちょっと解かった気がします。

ひまじん
2013年10月10日7:20

こういうのはちょっと分かった気になっておけばいざ専門の人たちに出会えた時に色々目から鱗なことを聞けるので、雑学として覚えておいて損はないですよね。

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