ブラックホールが本当は存在しない!?いやいや・・。某論文を読んでの感想。
2014年1月29日 コラム コメント (2)目次 http://himajin.diarynote.jp/201103131200449531/
コラム http://himajin.diarynote.jp/?theme_id=12
言わずと知れたミーハーなので今話題のホーキング氏の論文を読んでみました!悲しいことにネット上では微妙に勘違いで解釈されてるのを散見したので、簡単に従来の宇宙物理学の基礎知識と論文の概要を箇条書きでまとめてみました。とはいっても論文の大部分は共形場理論と量子重力理論及びADS/CFT双対性理論を熟知していることを前提にした難解な物理学なので、私が日記にまとめられるレベルのことは限られますが_(¦3」∠)_
ちなみにHiggs粒子や場の量子論にも興味のある方は以前のコラム(理系でも分かるHiggsのお話 http://himajin.diarynote.jp/201310092057572948/)も参考に!
また科学記事を書くときは毎回断っていてしつこいと思われるかもしれませんが、私はあくまで科学ファンなだけの素人なので初歩的な誤りを含んでいる可能性が存分にあります。検索でたまたま飛んできた人はこの記事の内容を過信しないでくださいლ(´﹏`ლ)
【従来の宇宙物理学の基礎知識】
1.質量にはシュバルツシルト半径と呼ばれる概念があり、その半径の内側では時空間に歪みが生じています。しかし通常の物質は物質の大きさがシュバルツシルト半径より相当大きいので、物質そのものに阻まれてシュバルツシルト半径内部に別の物質が進入することは出来ません。(参考までにシュバルツシルト半径は地球なら1cm程度、太陽なら数km程度です。それぞれの半径よりずっと小さいですね。)
2.物体そのものの密度が非常に高いとき、シュバルツシルト半径の内側にすっぽり物体が入り込んでしまうことがあります。そのような天体をブラックホールと呼びます。(従って天体をブラックホールと言ったときはその中心の質点のことを指したり質点を中心としてシュバルツシルト半径を半径とした球体のことを指したりします。ここでは後者のこととしましょうか。)
3.シュバルツシルト半径の内側に入り込んでしまった情報は外に取り出すことは出来ないと考えられています。これがブラックホールは一度入ると光でさえ抜け出せないと言われる所以でして、ブラックホールの方向を観測するとシュバルツシルト半径の大きさの真っ黒い穴が見えるようになっています。これは背景の天体たちの光がブラックホールの周囲を通る際に地球に到達することなくブラックホールに補足されるからです。(ただし重力レンズ効果というものがあり、ブラックホールの後ろにある光は捻じ曲げられながら地球に到達したりします。)
4.私達が情報を観測できる領域の境界を事象の地平面と言います。例えば地球からものすごい(宇宙年齢×光速)離れた位置にある物質の情報は地球上で観測できない上に、その場所(時々刻々と宇宙年齢が上がっていくので広がっていきます)へ到達することは不可能なので、そういう物質は宇宙の外側にあると表現したりします。逆に宇宙というものを宇宙物理学的には事象の地平面の内側の領域として定義したりもします。(つまりそういう文脈で宇宙の大きさうんぬんというときは宇宙年齢×光速のことだと思えばだいたい問題はないということですね。)
5.宇宙がただの球体ならば事象の地平面はその球面のみということになり話が早いわけですが、ブラックホールの内側も情報が出てこれないのでここも上の意味で「宇宙の外側」であり、ブラックホールの表面も「事象の地平面」なわけです。(これが「ブラックホールは別の宇宙につながっている」というSFチックな表現の元ネタでしょうかね?)
6.地球から到達できないほど遠くにある事象の地平面とブラックホールの表面にある事象の地平面は全く違った存在です。前者は光速で広がって離れていくのでそこを物質が宇宙から逃げて外に出ることが出来ませんが、後者は物質が落ちて行くことが出来ます。ブラックホールに落ちていった物質の情報は元々宇宙に存在していた物質の情報であるのにもかかわらず、もはや取り出すことが出来ません。
7.ところが量子論に従うと、宇宙内部の情報が何らかの形で損失することはありません。従ってブラックホールに落ちた物質の情報が失われることは量子論に直接矛盾しているかのように見えます。これを情報パラドックスと呼びます。
8.情報パラドックスを解消するために提唱された仮説の1つが、ファイアウォール理論です。これはブラックホールの表面に高エネルギーが集中しているというもので、この壁によって共形場不変量と呼ばれる不変量が崩れるため何やかんやで理論がうまくいくというものです。共形場理論については割愛なのでこれ以上はしません。(無理です。期待しないで下さい。)これはこれで相対性理論に反していてまだまだ修正が必要な理論です。
【論文の概要】
1.この理論が主張していることはブラックホールの事象の地平面の存在否定です。ナイーブな意味でのブラックホールの存在そのものを否定しているわけではありません。
2.事象の地平面が存在しないということは、地平面上のファイアウォールも存在しませんし地平面内の情報喪失も生じません。これならば量子論とも相対性理論とも矛盾していなさそうに見えますね。
3.この論文の内容について「『ブラックホールが存在しない』という仮説である」というまとめ方をされることがありますが、正確には「『情報の喪失が生じると考えられていた従来のブラックホールのあり方が誤りである』という仮説である」というべきでしょう。前者の表現が一人歩きしておりこれまでの観測結果と相反する理解がネット上で広がっているようです。
4.では情報が失われていないならばそれは観測によって復元可能かというと、現実的には不可能だそうです。論文の言葉を借りつつ表現を補いますと、「理論上は全ての空気中の分子の運動を解析すれば完璧な気象予報が可能であるはずですが、実際は複雑系の解析は困難であるためそれらの情報は失われているように見え、結果的に気象予報は完璧ではありません。それと同じように、ブラックホールへ落ちた物質の情報も様々な因子と混ざり合い複雑系をなしているため、観測による復元は難しい。」という見解のようです。
以上、いかがだったでしょうか?
科学の中でもロマンある分野が好きで特に宇宙が大好物の私にとって、「従来の常識であった事象の地平面の理論が実は正しくないのでは」という示唆を最先端の研究者が提示したことは驚きでなりません。もちろんこれはあくまで仮説であり今後も専門家たちの間で討論されたり様々な実験結果に則って検証されたりしていくでしょうが、こういう新しい風が「奇跡の年」から100年以上たった今でもなお吹き続けるこの宇宙物理学!何と素晴らしいことでしょう。ロマンあふれる理論が新たに提唱されて定着し、1つは廃れまた1つ新しい風が吹く、こういう流れをぼーっと眺めていけることもまた歳を取ることへの楽しみではないでしょうか( : 3 _ )=
コラム http://himajin.diarynote.jp/?theme_id=12
言わずと知れたミーハーなので今話題のホーキング氏の論文を読んでみました!悲しいことにネット上では微妙に勘違いで解釈されてるのを散見したので、簡単に従来の宇宙物理学の基礎知識と論文の概要を箇条書きでまとめてみました。とはいっても論文の大部分は共形場理論と量子重力理論及びADS/CFT双対性理論を熟知していることを前提にした難解な物理学なので、私が日記にまとめられるレベルのことは限られますが_(¦3」∠)_
ちなみにHiggs粒子や場の量子論にも興味のある方は以前のコラム(理系でも分かるHiggsのお話 http://himajin.diarynote.jp/201310092057572948/)も参考に!
また科学記事を書くときは毎回断っていてしつこいと思われるかもしれませんが、私はあくまで科学ファンなだけの素人なので初歩的な誤りを含んでいる可能性が存分にあります。検索でたまたま飛んできた人はこの記事の内容を過信しないでくださいლ(´﹏`ლ)
【従来の宇宙物理学の基礎知識】
1.質量にはシュバルツシルト半径と呼ばれる概念があり、その半径の内側では時空間に歪みが生じています。しかし通常の物質は物質の大きさがシュバルツシルト半径より相当大きいので、物質そのものに阻まれてシュバルツシルト半径内部に別の物質が進入することは出来ません。(参考までにシュバルツシルト半径は地球なら1cm程度、太陽なら数km程度です。それぞれの半径よりずっと小さいですね。)
2.物体そのものの密度が非常に高いとき、シュバルツシルト半径の内側にすっぽり物体が入り込んでしまうことがあります。そのような天体をブラックホールと呼びます。(従って天体をブラックホールと言ったときはその中心の質点のことを指したり質点を中心としてシュバルツシルト半径を半径とした球体のことを指したりします。ここでは後者のこととしましょうか。)
3.シュバルツシルト半径の内側に入り込んでしまった情報は外に取り出すことは出来ないと考えられています。これがブラックホールは一度入ると光でさえ抜け出せないと言われる所以でして、ブラックホールの方向を観測するとシュバルツシルト半径の大きさの真っ黒い穴が見えるようになっています。これは背景の天体たちの光がブラックホールの周囲を通る際に地球に到達することなくブラックホールに補足されるからです。(ただし重力レンズ効果というものがあり、ブラックホールの後ろにある光は捻じ曲げられながら地球に到達したりします。)
4.私達が情報を観測できる領域の境界を事象の地平面と言います。例えば地球からものすごい(宇宙年齢×光速)離れた位置にある物質の情報は地球上で観測できない上に、その場所(時々刻々と宇宙年齢が上がっていくので広がっていきます)へ到達することは不可能なので、そういう物質は宇宙の外側にあると表現したりします。逆に宇宙というものを宇宙物理学的には事象の地平面の内側の領域として定義したりもします。(つまりそういう文脈で宇宙の大きさうんぬんというときは宇宙年齢×光速のことだと思えばだいたい問題はないということですね。)
5.宇宙がただの球体ならば事象の地平面はその球面のみということになり話が早いわけですが、ブラックホールの内側も情報が出てこれないのでここも上の意味で「宇宙の外側」であり、ブラックホールの表面も「事象の地平面」なわけです。(これが「ブラックホールは別の宇宙につながっている」というSFチックな表現の元ネタでしょうかね?)
6.地球から到達できないほど遠くにある事象の地平面とブラックホールの表面にある事象の地平面は全く違った存在です。前者は光速で広がって離れていくのでそこを物質が宇宙から逃げて外に出ることが出来ませんが、後者は物質が落ちて行くことが出来ます。ブラックホールに落ちていった物質の情報は元々宇宙に存在していた物質の情報であるのにもかかわらず、もはや取り出すことが出来ません。
7.ところが量子論に従うと、宇宙内部の情報が何らかの形で損失することはありません。従ってブラックホールに落ちた物質の情報が失われることは量子論に直接矛盾しているかのように見えます。これを情報パラドックスと呼びます。
8.情報パラドックスを解消するために提唱された仮説の1つが、ファイアウォール理論です。これはブラックホールの表面に高エネルギーが集中しているというもので、この壁によって共形場不変量と呼ばれる不変量が崩れるため何やかんやで理論がうまくいくというものです。共形場理論については割愛なのでこれ以上はしません。(無理です。期待しないで下さい。)これはこれで相対性理論に反していてまだまだ修正が必要な理論です。
【論文の概要】
1.この理論が主張していることはブラックホールの事象の地平面の存在否定です。ナイーブな意味でのブラックホールの存在そのものを否定しているわけではありません。
2.事象の地平面が存在しないということは、地平面上のファイアウォールも存在しませんし地平面内の情報喪失も生じません。これならば量子論とも相対性理論とも矛盾していなさそうに見えますね。
3.この論文の内容について「『ブラックホールが存在しない』という仮説である」というまとめ方をされることがありますが、正確には「『情報の喪失が生じると考えられていた従来のブラックホールのあり方が誤りである』という仮説である」というべきでしょう。前者の表現が一人歩きしておりこれまでの観測結果と相反する理解がネット上で広がっているようです。
4.では情報が失われていないならばそれは観測によって復元可能かというと、現実的には不可能だそうです。論文の言葉を借りつつ表現を補いますと、「理論上は全ての空気中の分子の運動を解析すれば完璧な気象予報が可能であるはずですが、実際は複雑系の解析は困難であるためそれらの情報は失われているように見え、結果的に気象予報は完璧ではありません。それと同じように、ブラックホールへ落ちた物質の情報も様々な因子と混ざり合い複雑系をなしているため、観測による復元は難しい。」という見解のようです。
以上、いかがだったでしょうか?
科学の中でもロマンある分野が好きで特に宇宙が大好物の私にとって、「従来の常識であった事象の地平面の理論が実は正しくないのでは」という示唆を最先端の研究者が提示したことは驚きでなりません。もちろんこれはあくまで仮説であり今後も専門家たちの間で討論されたり様々な実験結果に則って検証されたりしていくでしょうが、こういう新しい風が「奇跡の年」から100年以上たった今でもなお吹き続けるこの宇宙物理学!何と素晴らしいことでしょう。ロマンあふれる理論が新たに提唱されて定着し、1つは廃れまた1つ新しい風が吹く、こういう流れをぼーっと眺めていけることもまた歳を取ることへの楽しみではないでしょうか( : 3 _ )=
コメント
いつか、人類が光の速度を超えることはできるんでしょうかねぇ・・・
ちなみに真空中の光速は現在の相対性理論では超えられませんが、屈折率の違う媒質内での光速なら超えられるんですよね
空気中で音より早く動くと衝撃波が出るように、水中で光より早く動くとツェレンコフ光というものが観測されます
これを調べられたのがカミオカンデで、それがニュートリノの検証につながったわけですね